原作:安房直子 脚色:きむら さとみ(顧問) 潤色:石狩翔陽高等学校演劇部
海女の魔法によって人間の少年少女になったカモメと耳の医者の物語。 『安房直子コレクション1 なくしてしまった魔法の時間』に収録されているので詳しい内容を知りたい方は読んでみてほしい。
今作は「劇団『碧い海』第26回公演」にて仲上月菜による朗読劇『ご来場の皆様へ』(作:刹羅木 劃人)と共にゲスト上演された。脚色が顧問と言うことで顧問から課題として『鳥』の舞台化を提案されたのだろうか。だとしたら、なかなか厳しい先生だと思った。読み物を舞台化すると心情を表現することが難しい。モノローグを上手く使うか説明過多にならぬよう台詞を作りこむか。尚且つ安房作品はファンタジーである。少女の耳の中の世界に医者が入る場面があり難問山積みである。
安房作品を意識してか(海の色かもしれないが)照明は作者が好きな青が基調だったと思う。耳のお医者さんの診療所が舞台なのだが、出だしから波の音を使っていたので「おや?」と思った(診療所から海は遠い)。映像作品であればカモメと共に海から入るのも有りかもしれないが、演劇では厳しく思えた。ただ診療時間が終わった後の物語だと、原作には書かれていなかったことを台詞で明確にしていたのは好印象だった(原作では夕方とはいえ忙しいはずの診療所に患者がいなかったのが不自然に思えた)。
「鳥が人間に変身するというモチーフを使って、思いきりロマンチックな物語を書いてみたかったのです。」安房氏が作品に対して語ったことだが、それを意識してか原作には無い少年と少女が一本のラムネを飲む(間接キス!もちろん演技!)場面が加えられていた。なかなかの青春っぽさで、この潤色も好印象である。
しかし海女の演技プランには疑問が残った。普通に可愛いのだ。原作では「みにくいとしよりの海女」なのに、くしゃくしゃで茶色い肌のメイクもない。声も若いままだ。魔法使いっぽさを出そうとしてか、原作には無い雷鳴をとどろかせていたが何せ可愛い。体の使い方も含め上手く演じられなくても、それっぽい演技プランに挑戦して欲しかったところ。
そして耳の中の世界はさておき、治療が失敗に終わったとき少女にはもっと落胆して欲しかった。「無理を言ってすみませんでした」と原作には無いセリフで、聞き分けが良いというか何というか。「好きな人と一緒に居られなくなるんだよ、もっとショック受けてよ」と思ってしまった。
それから最後。診療所を出た少女に、自分がカモメだと知らない少女に、その事を伝えに医者は走り出して物語は終わるのだが、あまりのぶつ切り感で「終わったの?」と戸惑う空気が会場を満たした。原作を知っているボクでも戸惑った。少女の耳の中に「すてきな秘密」を入れるためにお医者さんは追いかけるのだが、その説明が不十分だったからだ。ひょっとしたらオリジナルのラストがあるのではないかと期待したくらい。けれど、しばらくして生徒たちが出てきて終演となった。
確かに原作での終わり方も中途半端な感じがしないでもない。しかしそれを分かっていて選択したのだから、もう一工夫して欲しかった。少女が診療所を舞台奥へ出た後、面をとぼとぼ歩かせて袖に捌けるあたりで少女がカモメであることに気が付き「君には素敵な秘密があるんだ」とお医者さんが走り出して、悲しむことは無いんだという感じで終わればまだ分かりやすかったかなと思う。
高校生にどのくらい上演の機会があるのか分からないが、実験する機会はあって良いと思う。課題をいくつか持って上演し三打席一安打でも、たとえ三打席凡退だったとしても本番でしか試せないこともあるだろうから。狙った結果が得られたかどうかは後できっちり検証すればいい。漠然と感想をお願いするよりwebアンケートなどで「ここの演出にはこのような狙いがあったのですがどうでしたか?」と観客に質問しても良いと思う。その方がボクも勉強になるので。かなり好き勝手なことを書いてしまったが、実は実験したいことが明確にあったのでは?とも思っている。機会があれば質問してみたいものである。
※上演に先立ち、『碧い海』団長の飯尾亜紀仁氏から挨拶があった。石狩南高等学校演劇部の方々が会場でお手伝いをしていたのだが「次回は石狩南も上演してくれるよね?」とのこと。聞き間違いかもしれないが会場後方から微かに「やりたい」との声が聞こえたような気がした。もし実現すればちょっとしたフェスである。期待するとともに、「そうなると駐車場が足りないな」とほぼ満杯の駐車場を見ながら会場を後にするボクなのであった。
2024年12月15日(日)13:00
アートウォームにて観劇
text by S・T